入れたくないイレウス管

10代の男子で穿孔性虫垂炎術後で腸閉塞を起こし、イレウス管が必要な状態の子が来ました。自分が手術した患者ではありませんでしたが、どうやら手術所見では膿瘍形成もあり大変な手術だったようです。

その前に、イレウス(腸閉塞)とは。腸閉塞とは簡単に説明すると、腸内容の通過障害が何らかの原因によりおこり、腸液、ガス、糞便などが腸内腔に充満し、排便や排ガスがなくなり、腹痛、嘔吐、腹部膨満などの症状をきたすことです。腸閉塞=イレウスというと少し語弊がありますが、ひとまずここでは同じようなものと考えてもらいます。イレウスも多々種類はありますが、今回は癒着による単純な機械的な腸閉塞です。

腸管の閉塞がおきると、腸管浮腫が起き、閉塞部より口側の腸管の通過障害、腸液やガスが充満し腸内圧が亢進、腸管壁の血管が圧迫され血行障害が起きた状態となります。単純に腸管が拡張するだけで、お腹の痛みが出ますし、腸の蠕動に合わせて間欠痛が出ます。

腸管浮腫が引き起こす全身症状としては、

①呼吸機能の低下:膨満した拡張小腸が横隔膜を押し上げる

②心臓や腎臓機能の悪化:腹部の大血管が圧迫され静脈の流れを障害する

③著しい脱水と電解質異常:嘔吐・腸管の吸収障害・水分や電解質の喪失

④敗血症:腸管浮腫により腸液やガスなどの吸収が障害→腸管内の腸内細菌が異常増殖し毒素を産生、腹腔内や血中に移行することで敗血症をおこす。

これらの要因が相互に関連し悪循環となって、急激に重篤な全身状態の悪化をもたらすと言われています。とりあえず患者の症状としては、まず腹痛・嘔吐ですね。痛みをとって、嘔吐しないようにしてあげましょう。

症状・診断としては

1.腹痛 2.嘔吐 3.発熱や頻脈などの全身症状 4.腹部の圧痛:腹膜刺激症状 5.白血球増加 6.腹部単純X線(立位) (腸管ガス拡張像 ・鏡面像) 7.超音波検査・CT検査(拡張した腸管 ・腸管壁の肥圧・腹水)

など。基本的には、腹部所見+画像で判断します。

対応としては、

①絞扼性イレウスは緊急手術が必要。腸管虚血があれば腸が腐ってしまうので。 壊死が進むようなら腸管切除が必要ですね。閉塞の解除だけで終わるパターンもあります。開腹手術が基本ですが、閉塞をきたしている箇所が明らかな単純なバンド形成のみであれば腹腔鏡下の手術から入ってもいいでしょう。

②絞扼をきたしていない、閉塞性イレウス

1.輸液の点滴投与 2.抗生物質の点滴投与3.中心静脈栄養(IVH)の考慮 4.腸管の減圧(胃管・イレウスチューブ) 5.手術によるイレウス解除術

など選択肢があります。手術しないで様子を見れることもあります。繰り返している腸閉塞や何日か経過を見てもなかなかよくならないようであれば手術を選択します。まあとはいえ、前に行った手術の影響で癒着を起こし腸閉塞になっている人が大半なので、腸閉塞の手術を行うことで、閉塞箇所の改善はできますがこの手術によってまた癒着して腸閉塞を別の箇所で起こす可能性は否定出来ません。

保存加療となると、ここで胃管・イレウス管という選択肢になります。目的としては、腸閉塞の患者に対して腸管内の減圧をし、腸管を休ませてあげて閉塞を解除するというもの。また減圧した後にイレウスチューブより造影剤を注入し小腸造影することで、閉塞部位の診断にも役立ちます。

種類としては、一般的に用いられているのが胃管(経鼻的に胃内に留置するもの)で、これだけで改善しない場合に、イレウス管を使用します。ちなみに、閉塞箇所が大腸であれば、経肛門挿入型のイレウス管の会って、経鼻タイプのものより短く、肛門に近い直腸 やS状結腸の閉塞では有効。閉塞している部位によりを使い分けます。

ここまで来てやっと本題へ。イレウス管の挿入方法です。透視・内視鏡下にて、経鼻的に挿入することがあるようですが、自分は透視のみで内視鏡を使わないで入れる方法がほとんどです。

内視鏡を使い方法としては、

1.経鼻的に内視鏡を挿入し、胃に挿入後、視認下に胃液や空気を極力吸引することで、苦痛を緩和し、かつ後のチューブ挿入を容易にする。 食残がある場合にはレンズや鉗子口の接触を避ける。

2.十二指腸下行部まで内視鏡を挿入してから、鉗子チャンネルを通してガイドワイヤーを挿入する。

3.透視下にてガイドワイヤーを進める。慎重かつ愛護的に操作しながらできる限り深部に挿入するが、可能であればトライツ靱帯部 (十二指腸空腸曲)を越えて深部に進めておく。

4.ガイドワイヤーを留置したまま、内視鏡のみ抜去する。抜去の際も、胃内の空気を可能な限り吸引すると、チューブ挿入の難易度を下げ、患者の苦痛も少ない。

5.イレウスチューブ全長をガイドワイヤーにかぶせて挿入する。体位変換や用手圧迫を用いて、できるだけ深部へチューブを挿入する。可能であれば拡張腸管まで到達することが、患者の苦痛を軽減し、早期の回復を促す一助となる。

6.最後に留置バルーンに蒸留水を入れガイドワイヤーを抜去して終了する

※炭酸ガス送気装置の使用:イレウスチューブ挿入に際して、炭酸ガス送気装置を用いて施行することで、通常送気に比べて炭酸ガスでは腸管から速やかに吸収がされることで処置後の腹満感・不快感を軽減することができる。

上記が内視鏡使用したときの挿入方法のようです。自分はやったことはありませんが。ここからは今回の症例も交えて入れ方を振り返ります。

透視室にて、まずは少年を落ち着かせて仰臥位で寝かせます。嘔気が強いようです。小児科の先生が十分ICをしていたようで覚悟を決めていました。物品の準備は省略。胃管は入れられていませんでした。

吸引口から先端側孔まで、チューブ内腔を蒸留水・生食で十分満たし、ポート付コネクターを吸引口に装着した。チューブ先端部分に潤滑剤・表面麻酔剤を適量塗布する。チューブを経鼻的に胃内にゆっくりと挿入。一旦、胃内を十分吸引し、嘔吐運動で十二指腸内のバルーンが胃内に戻ることを防止できます。ガイドワイヤーをポート付コネクターのねじ込みキャップから吸引ルーメン先端まで挿入する。チューブ挿入は必要に応じ、ガイドワイヤーを固定させながら行う。ガイドワイヤーを固定する際は、ガイドワイヤー固定具のレバーを回し、ガイドワイヤーを固定具のレバーに挟み込んで固定する。X線透視下で半立位、左前斜位にて、チューブ先端を胃前庭部に向ける。右側臥位にて、チューブ先端を幽門に向け、その状態でガイドワイヤーを先導子より先行させることにより、ガイドワイヤーが幽門を通過 することを確認する。この時点でガイドワイヤーが幽門を通過しない場合は、経口的に内視鏡を挿入し、ガイドワイヤーを鉗子等で 幽門まで導く。今回はなかなか胃内で幽門に先端を向けることが難しく難渋したので、ループを作ったまま先端を幽門に引っ掛けて押し込んで、十二指腸に入れ込みました。なかなかアクロバティックがことをしましたが成功しました。チューブ先端が幽門を通過したら、ガイドワイヤーをチューブから5 cm 程引き抜き、チューブを5cm 程挿管(入)する操作を繰り返しチューブを可能な限り押し進める、、のが定石ですが、十二指腸の下降脚から水平脚に進めるのがとても大変でした。ガイドワイヤーの位置を何度も変えたり、ちょこちょこ動かしながら進めようとしましたが、胃内でたわんだり、せっかく入れた幽門が抜けそうになったりして大変でした。バルーンで固定してストレート化して進めようともしましたが、うまくいかない。。。言っておきますが、少年は最初に胃内に到達した時点で号泣し、いつ終わる?今どの辺?なんでこんなことしなきゃいけないの?もう手術してよ、辛い苦しい、と気持ちが折れてすごく苦しんでいました。ちなみに大量に嘔吐しながらです。その場はカオスですが、それでも心を鬼にしながら、今半分くらい、ここが一番大事だ、頑張っているね、などそれとなく声かけをして耐えてもらいました。やっぱり、胃内でカテーテルがループして胃を押し込むことと鼻・咽頭の違和感が一番辛いようでした。結果、自分は入れ切ることができずに手を代わり、ようやく先端を先に進めることができた次第です。少年は自分のことを一生恨むことになるでしょう。

留置位置決定後、バルーン内に滅菌蒸留水を10~15mL(30mL以下)注入する。ガイドワイヤーを抜去し、ガイドワイヤーを抜去した後、チューブを胃内に送り込み、弛みをつけておく。確実にチューブの側孔部が腸管内に入ったことを確認する。バルーンが蠕動運動によって閉塞部位まで運ばれて行くので、その間に吸引・減圧を行う。目的位置まで達したら、吸引口から造影剤を注入する。といった手順で終了です。

ちなみに繋ぐバッグはフリーで開放する廃液バッグのほか、メラに繋いで持続吸引してもよいし、胸腔ドレーンで水封で繋いでもいいです。

正直、技術のみならず、運もあるとは思いますが、基本的な進め方は技術・経験がものをいう手技になると思います。体位変換・体外的な圧排・ガイドワイヤーの使い方など上手い先生も多いと思います。自分はイレウス管の経験も浅いため、コツがあれば教えていただきたいです。

少年は腸管内の拡張が取れたことにより、その後改善しました。手術せずに保存加療が効いたのです。ただ今後も癒着による腸閉塞の症状は一生続くかもしれません。今後苦しむことがないことを切に願います。

tino

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